.

2013/02/25

お香は香りを聞く「聞香」と文学的に表現される。





マッチはパイプ喫煙に最適の火種である。
どんな高価なライターも昔ながらのマッチには敵わない。
新しいパイプのボールトップを焦がしたく無いからと
タバコの葉を購入しているタバコ屋さんが
オマケに送って呉れるマッチを使って火を付けた時、
その情緒と利便性を再認識してしまった。

マッチを擦る時の手先の感触が好きだ。
ロウソクの様に木の軸がゆっくりと燃えて行く様を眺め、
手先を振って火を消す瞬間が好きだ。
パイプで喫煙し香りを楽しむ穏やかで悠長な行為が、
思考回路を呼び覚まし私を鋭敏にする。

お香を香炉でたく薫りの楽しみでは、
香りの味わいを聞くと表現し「聞香 もんこう」と言う。
また、間接的に熱を加える「空薫 そらだき」と呼ぶ
平安時代から行われているたき方などもある。
何と奥ゆかしく文学的な表現なのだろう。
そして香炉や火箸などの道具が持つ造形美を鑑賞する。
それはパイプ喫煙にも相通じる。
工芸品としての美を求めたパイプを愛でながら、
繊細な香りを楽しむ趣は同じである。

源氏物語より
  かざす扇に焚きしめし 空薫き物のほのぼのと 夕顔
  そらだきの香 いと心にくく薫り出で     若紫
                   

ただ簡便なだけの紙巻タバコの喫煙と同一視して、
未だ放出され続けている福島原発事故の放射能には無言で
嫌煙権だ間接喫煙だと騒ぎ立てる社会を嫌悪する。




2013/02/19

ビング・クロスビー・シェイプと呼ばれるパイプ。







どんなシェイプのパイプが自分には良いのかなどと、
雪に閉ざされてネットサーフィンする毎日。
まさに「小人閑居して不善をなす」状態である。
そして、飛っきりスレンダーな美人に出会ってしまった。

"Shell Briar with Silver Band 4110 Gr.4"。
長く真直ぐに伸びたシャンクとステムの全長17センチ!
どの程度口から離れるのかメジャーで計ったが悪くは無い。
内側に傾斜した繊細なトップや銀のリングも私の好みだ。
嫌いだったサンドブラスト仕上げのザラザラさえ
これが「渋さだ」とばかりに私を誘う。

若い頃の様にロンドンのジャーミン・ストリートを歩き
憧れの黒いドレスGr.3を購入したいなどと夢見ていたが、
コレならクロネコが明日配達して呉れる。
思わずマウスが注文確定欄をクリックした。

届いた4110の気品ある姿に私は大いに満足した。
コレが、私の最後の日を見届けてくれるパイプだ。

大切に使おうと通常は読まない取扱説明書を読んでみたら、
次の様に書かれている。ハチミツの話は本当だ。
1.0mm~1.5mmのカーボン保護層が形成されるまでは、
ボールを暖め過ぎない様に注意しなさい。
蜂蜜をボール内側に少し塗るとカーボン形成は速くなる。
"A little honey applied around the tobacco bore 
 can speed carbon formation."
更に、風が強い屋外で新しいパイプでの喫煙は注意が必要、
空気が入り過ぎてボールを焦がす原因となる。
早速、ぺぺとの山歩きにと思ってワクワクしたが、
当分は我慢しなければならない様だ・・・


この細長い "Shell Briar with Silver Band 4110" は、
欧米では別名ビング・クロスビーと呼ばれている。
海外のサイトでビング・クロスビーシェイプと検索すると、
このパイプをくわえたクロスビーの写真が溢れてる
若い方々は、ご存知無いだろうが、
私の世代でビング・クロスビーを知らない者はいない。
あのホワイト・クリスマスを唄った偉大な歌手である。

そして、当時の映画俳優のパイプ姿を眺めながら思った。
あの頃はストレートタイプのパイプが流行りだったのだろう。
だから、私の好みもストレート・シェイプなのだと・・・



ビング・クロスビーとグレース・ケリーのデュエット。
60秒辺りからクロスビーの唄声が聴こえます。


"True Love" Bing Crosby / Grace Kelly from the film " High Society"


2013/02/16

パイプには人生がいっぱい詰っている。”Old Dog"




"Sit back comfortably to ponder the meaning of life 
 with Old Dog as your companion."

「ロッキングチェアに深く座って、
 相棒の老犬と共に
 人生の意味を深く考えてください。」

マクレーランド社の ”They're Back ! ..."
「彼らが帰って来た」シリーズの"Old Dog"(リンク)
このタバコの説明に書かれた広告文である。

この文章には、男達がパイプタバコに求める全てがある。
まだ、私はパイプを始めて1ヶ月にも満た無い。
しかし、この意味深い文章で、
パイプ喫煙が持つ真の意味を深く理解し得た。

この様な哲学的なフレーズを広告文に使う企業が存在し、
それが当然の様に通用する国が羨ましい。

面倒なパイプの扱いや、パイプの手触りや温もり。
辺りに静かに漂う芳香の行方を追いながら、
過ぎて行った日々が煙の様に現れては消えて行く。
何と言う静かで満ち足りた一時。

冬の日差しが白雪に反射してストーブの様に暖かな
雪に埋もれた山小屋のテラス。
老犬ぺぺと私は眩しく輝く雪景色を眺めながら、
今日もパイプの煙を楽しんでいる・・・

この「Old Dog」をパイプを始めたばかりの私は
朝から晩まで煙にし続けて完全に虜にされてしまった。
愛犬ペペも、匂いには敏感だから、
この旨そうなラタキアの香には強烈に反応する。


オールドドッグは、かってアシュトン社のために作り
人気の高かったオリジナル・レシピを自社ブランドとして、
フルイングリッシュ・ミックスチュアをテーマに世に出した。
熱気乾燥させた最上質の甘いバージニアと
漆黒のブラックキャベンディッシュを主体にして
香り高いキプロス・ラタキア&スパイス感のあるマケドニア
を絶妙な配合比でブレンド。
さらに、味と香りを高める為にリボン・カットして
非常に力強い香りと熟成感のある甘み、マイルドな後味
に仕上げている、と説明されている。


2013/02/14

20世紀初頭のレシピを甦らせたパイプタバコ。




古風な意匠にタイタニック号が描かれたドイツのタバコ。
味わいは20世紀初頭のマコーネルのレシピだと説明されている。
1848年創業のC.E. McConnell 社のクルーズ・ライン。
最高級タバコを世に送り出したC.E.マコーネルは閉鎖され、
今はドイツのプランタがマコーネルのレシピを忠実に再現する。
豪華客船のデッキで男達が燻らせていたタバコと同じ味わい。
何だか胸がワクワクして来るではないか。

オランダ・アメリカ・ライン100周年記念の
”A Bridge to the Seven Seas"と題された本を眺めながら
古き良き時代の豪華客船に想いを馳せた。

当時の雰囲気そのままの角い缶が欲しくて注文したが、
デザインが変わったのか届いたのは丸い缶だった。
少しガッカリしたが、香を逃さない密閉性や、
製造コスなどの制約から丸い缶に変わったのだろう。
早速、味わってみたが期待通りであった。
それは、何処からか衣擦れの音が微かに聞こえて来る様な
繊細でエレガンスに満ちた香りだった。

1864年創業のW.O.ラールセンが当時のレシピを
復刻させたと言う"W.O. Larsen 1864"にも感じたのだが、
これら古いレシピを甦らせたパイプタバコを味わうと、
幼かった頃、母や祖母の和服から感じた香りを思い出す。
そして、穏やかに私を安心させる。

Holland America Line
”A Briridge to the Seven Seas"

写真はクリックで拡大します。



2013/02/11

スコードロン・リーダー、を常用タバコにしよう。




1930年代のSQUADRON READERの缶
現在のSQUADRON READERの缶

古い飛行機の本を見ながら燻らせたスクァドロン・リーダー。
”Squadron Reader”とは、英国空軍の少佐を意味する。
1914年、このタバコは英国空軍将兵に捧げるために生まれ、
現在も延々と造り続けられている歴史あるブランドだ。
しかも、このタバコを発売するサミュエル・ガーウィズ社は、
1792年に創業したイギリスで最も歴史を持つタバコ会社である。
このタバコ缶に描かれている複葉戦闘機は、
第一次大戦で最多撃墜数を記録したソッピース・キャメル戦闘機
キャメルと呼ばれたのは、操縦席前に装備された
機関銃を覆った膨らみがラクダの背中の様だったからである。

親に勘当され東京に出て来たばかりで苦労していた頃、
調布の粗末な木造アパートで、プラモデルを作るのが慰めだった。
レベル社の1/48プラモデルソッピース・キャメル
大空を鳥の様に飛ぶ複葉機の姿が私に夢を見させてくれた。
このタバコは、貧しかったあの頃を想い出させ、
なぜか煙が目に滲みる・・・

そうだ、この"Squadron Reader" を
私の常用タバコにしよう。

レベル社の1/48 SOPWITH CAMEL F.1プラモデル


貴族しか飛行機の操縦士にはなれ無かった第一世界大戦。
まだ、騎士道精神に溢れた戦いが繰り広げられた。
ドイツの撃墜王レッド・バロン(リヒトホーフェン)が操縦する
3枚翼フォッカーDr1を撃墜したのは、このキャメル機に乗る
カナダ空軍のブラウン大尉と伝えられている。

騎士道精神へのオーマージュとも言える
この時代の空中戦を描いた映画 "Blue Max"(リンク)
もう、現代の男達が忘れてしまった
「名誉とは何か、誇りとは何か」
そして「武士の情け」と言った美学を語りかける。
ぜひ、ご覧ください。


2013/02/10

名車ラゴンダに相応しいパイプ、黒いドレス。





朝から晩までパイプにのめり込んで何日目だろう?
今夜のハンバーグ・ステーキがラタキア風味かと思う程、
鼻の周辺にパイプ・タバコの匂いが漂っている。
愛犬ペペは私のパイプがジャーキーにでも見えるのか、
ラタキアの匂いがぺぺの食欲をも刺激するのか、
やたらと私にオヤツを要求してウルサい。
葉巻は何十年もの経験があるから一家言持っているが、
パイプは数日前に始めたばかりの駆け出しだ。

自宅に帰れば若い頃に始めたが面倒で挫折した
古いBBBのパイプやコンパニオンなどがあるからと、
単3の乾電池をダンパー代わりに使っている。
でも、サイズ的には実に使い易い。

銀巻きカナディアンが気に入ったので2本購入した。
練習用に買ったアイリッシュ・アーミーを酷使したので、
葉の詰め具合やダンパーの押さえ方も慣れて来た。
形ちが嫌いなのでダメにしても良いと思っていたが、
軽くて実に使い易いパイプ。
無骨なマウスピース差し込み口も今では可愛く見える。

かってオーストラリアのクラシックカーラリーを
共に戦った1934 Lagonda M45



今日はG.L.Pease オールド・ロンドン・シリーズの
名車「ラゴンダ」の絵が描かれたタバコを味わって感動した。
Old Dog や Squadron Leaderも旨いとは思ったが、
これは何と言う美味さ、もうこの芳香からは逃れられない。
缶に描かれたラゴンダは1935年のル・マン24時間で優勝した
伝説の「1935 Lagonda Rapide M45R 」。
この誇り高い名車ラゴンダに相応しく調合された香りは、
キプロス産の極上ラタキアと熟成させたレッド・バージニア、
さらに最上質で芳醇なオリエントをブレンドし長期熟成させて
少し幅広にリボンカットしたと缶に説明されている。
私には、この調合の意味は理解出来ないが、
ラゴンダのイメージが芳香に加わるからより魅せられる。


犬はアイリッシュセター、酒はアイリッシュウイスキー。
だからパイプもアイルランドのピーターソンに決めた。
パイプのコレクションなど始める気は無いから、
一週間ローテーションの7本を揃えるつもりだった。
でも、名車ラゴンダに相応しいのはダンヒルに思えてくる。
だから一本だけ例外で購入したいと思い始めている。

ネット上でダンヒル・パイプは別格に扱われている。
階級社会の英国でパイプは両手を使わずに喫煙出来るから
労働者の間から普及したと伝えられているのに、
パイプの世界ではダンヒルの歴史は浅いのに、
30年も前からロンドンのダンヒル・ショップには、
日本人客専門の日本人店員を置いていたほど商売上手なのだ。
ロンドンで買物する喜びが消え失せると思うのだが、
こんな商売上手さには、ウンザリする。
猫も杓子もメルセデス・ベンツに乗りたがる様な、
日本人的ブランド志向からだろうと、私は敬遠して来た。
しかし、写真を見ると高品質のオーラーが伝わって来る。
ダンヒル・パイプには格調の高いデザインと
7つの海を制した大英帝国の威厳が脈々と流れている。


葉巻の世界ではダビドフをロールスロイスに例えて崇めるが、
パイプの世界では同じ喫煙なのにダビドフは騒がれない。
それは、愛好家に厳しい選択眼を持つ知的な人が多い証拠だ。
確かに学者や文学者にはパイプ愛好者が多いではないか。

このラゴンダをダンヒルのパイプで味わってみたい。
英国のサイトで見付けたダンヒル・パイプに憧れ始めている
それは銀リングを巻いた小柄な黒いドレス Gr.3
葉巻でもロンズデールまでのサイズしか吸わないように、
大きく重そうなのや創作パイプは嫌いだから、
この黒いドレスを纏った華奢で清楚な姿に魅了される。
葉巻コイーバ2箱分を我慢すれば購入出来るではないか。
いま保存している葉巻200本が終わったら、
もう高価な葉巻は止めて、経済的なパイプだけにすれば良い。
などと、悪魔の誘惑の囁きが聞こえて来る。

しかし、後何年、私はパイプを楽しめるのだろう・・・

2013/02/08

完璧なタイポグラフィ。素朴で古典的な造形。




W.O. LARSEN 1864 Pipe Tobacco
W.O. Larsen was established in 1864 
by Wilhelm Ockenholt Larsen in the heart of Copenhagen. Denmark.
Since then the W.O. Larsen family has been acknowledged for 
offering the ultimate luxury in pipe tobacco.




1864は、ラールセンが創業した1864年に因んでいる。
創業当時、人気の高かったブレンドを復刻させたと説明されている。
この品格のあるタバコ缶を眺めながら、

1960年代、私がグラフィックデザインを学んでいた頃の
ハーブ・ルバーリンタイポグラフィ(リンク)を思い出している。
こんな美しいタイプフェイスの選択や計算された文字組は、
ローマ字圏で育った欧米人にしか出来ない。

これ程までに美しいデザインの缶なら
タバコの味わいなど、私はどうでも良くなってしまう。



Peterson Pipe TANKARD
"Tankard" Peterson specialties.
Setter type that has been inspired by the mug when you drink a pint of Guinness.


ギネスビールを飲むジョッキをイメージした造形。
とても小さなパイプだが、この古典的で素朴な造形に私は魅せられた。
森の中をペペと散歩する時、ポケットに忍ばせて
一時を楽しみたく思っている。