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2013/04/18

2010年ピーターソン・イヤーズ・パイプは、ジャガーC-Typeを想わせる・・・




もう2ヶ月間、酸素よりもタバコの煙を多く吸って来た。
葉巻からパイプに変えて、その魅力の虜にされたからだ。
パイプ喫煙は葉巻より私の性格に合っている。
海外のサイトで年季の入ったパイプ喫煙者のブログを読み漁り、
国内のパイプ2チャンネルの書込みまで読んで学んだ。

私に相応しいのは、どんなパイプかを教えて呉れたのは、
2010年のピーターソン・イヤーズ・パイプのサンドブラスト。
多分、誰にも見向きもされずに3年間もタバコ店に飾られ、
ネットショップに出ていた売残りパイプだろう。
”Peterson Pipe of the Year 2010"と称するからには、
企画の段階からいろいろと手の入り方が違うのだろうと思い
重量が65gもあったが試しに購入してみた。

イヤーズ・パイプの箱はタバコ葉2010 Special Reserve"の缶と連動している。
価格相応の造りだが立派な金具がイヤーズパイプだから少しでも喜んで貰おうとする
アイルランドの人たちの温かい心が伝わって来る様だ。


配達されたパイプに、私は一目惚れしてしまった。
アイルランド男を想わせる様な逞しさに溢れたフォルムは、
一見、ごく普通のパイプの様に見えるが、
これまで何百本と見たパイプの写真には感じなかった
完璧なバランスを保つ3次元の曲線で見事に構成されている。
これが150年の歴史が培ったパイプの美学なのだ。
黒いサンドブラストのシャンクに合わせた太いステムには、
純銀のWリングが誇らし気に巻かれている。
何と鋭い美意識、これこそ私が求めていたパイプだ。


もう、他のパイプで喫煙する気分にはならないほど、
このパイプは私を満足させてくれる。
一日中、このパイプで喫煙し続けているがタバコが実に旨い。
吸い終わるとモールを通して掃除し、シャンク煙道の小さな穴を
懐中電灯で照らし綿棒で湿りを除去する。(フィルターは無い)
そして再び、ボウルに新しいタバコを一杯詰めて火を点けるのだ。
夜はカメラ機材用の乾燥庫で乾燥させ休ませているが、
ローテーションのため同じパイプをもう2本欲しいと探した

ダンヒルを購入したウイーンのショップに2010年は無く、
2011年のピーターソン・イヤーズ・パイプがあった。
六角形のボウルが洒落たエボニー(黒檀)の魅力に引かれ、
同じ様な雰囲気だからと注文してしまった。
しかし、どうしても2010年が欲しいと執念深く探し続けたら、
ニューヨークのタバコ店に残されていた。
シリアルNo.が入る1000本限定の希少なブライヤーもあったが、
これまで気になったグレイン(木目)への興味は失せていて
同じ黒いサンドブラストを注文した。


嫌いだったサンドブラスト仕上や重そうで曲がったパイプが、
今では。私のお気に入りになってしまった。
重量38gで長さ17cmストレートのダンヒル・クロスビーと、
この重量65gのパイプを口にした感覚は変わらない。
ストレートのパイプはボウルの重力が前方に離れて掛かるが、
ベントしたパイプは重心が口元に近いから軽く感じる。
しかも、サンドブラスト仕上げは非常に軽い。
ダンヒルの4110でブライヤーとサンドブラスト(シェル)を
比較すると約10gもの重量差がある。
ブライヤーのスムース仕上げはサンドブラスト仕上げの素材より
より高品質な素材が要求されるが、その差は大きい。
そして、大きな火皿は周囲のタバコ葉を通して煙が熟成され、
サンドブラストの凹凸が表面積を増やし放熱効率を高めるから
よりマイルドな芳香が楽しめる
葉巻でも細いパナテラ・サイズよりも太いロブスト・サイズが
マイルドな味わいなのと同じなのだ。

パイプの大小と重量の違いをスポーツカーに例えれば、
ライトウエイトのピーキーなエンジンの加速感と
トルクのある大排気量エンジンの加速感との違いと同じだ。

このイヤーズ・パイプのシェイプを見ていると、
2010年のグッドウッドを駆け抜けていた
濃紺のジャガーC-Typeの丸いリア・ビューが
私の眼に浮かぶのだ。





生命ばかりが長く 希望ばかりが大きい




パイプ喫煙を始めて78日が過ぎた。
朝起きて夜寝るまでパイプ・タバコを吸い続けていた。
煙にしたタバコの量を空缶で計算すると約2000グラム。
多分、通常の喫煙者の2倍近くを煙にしてしまった。
しかし、パイプに付いてタバコの葉に付いて、
工芸品としてのパイプの美学、喫煙の文化史など、
研究論文が書けるほど集中して学んだ。

写真を写しながら、つくづくと反省した。
これらタバコ缶に加え買込んだ数本の高価なパイプ。
当分は粗食に耐えて煙だけで生きなければ・・・

大正8年(1919)東京有楽座で上演された
メリメ原作「カルメン」の劇中歌(歌詞は6番まである)
作詞 北原白秋 作曲 中山晋平

「煙草のめのめ」 詩 北原白秋

  煙草のめのめ、空までけむせ
  どうせ、この世は癪のたね
  煙よ、煙よ、ただ煙(けぶり)
  一切合切、みな煙

  煙草のめのめ、あの世も煙れ
  どうせ、昔はかえりゃせぬ
  煙よ、煙よ、ただ煙
  一切合切、みな煙

この虚無的な白秋の詩で、私は想い出す。
多分、原詩よりも良いのではと思う堀口大学の訳詞。
アポリネールの「ミラボー橋」
私の学生時代の文学好きは暗唱したほど有名な詩である。

「ミラボー橋」 (好きな一節)

  流れる水のように恋もまた死んでいく
  恋もまた死んでゆく
  生命ばかりが長く
  希望ばかりが大きい

  日も暮れよ、鐘も鳴れ
  月日は流れ、わたしは残る




2013/04/14

六角形の謎。2011年ピーターソン・イヤーパイプ。




今日、音楽の都ウイーンで購入したパイプが届いた。
チェスの駒を想わせる黒檀の六角形ボウル。
2011年ピーターソン・イヤー・パイプである。

2011年はチェスをテーマとしていたから、
エボニー(黒檀)が相応しいと選んだが、なぜ六角形?
チェスの駒、王・女王・騎士・城?
アイルランド/ダブリン/チェス/ケルト文化?
何をイメージしているのだろう?
この六角形に付いて欧米のサイトで徹底的に調べたが、
六角形に付いて説明した記事は無かった。

毎年、ピーターソンが世界で1000本限定発売する
イヤー・パイプは魅力的なので収集したくなる。
このイヤー・パイプを楽しみに待つユーザーに応えようと
ピーターソン社の職人達が特別な思いを込めて、
デザインしているからに違いない。
しかし、何故、チェスがテーマの年なのに、
チェッカーの四角では無く六角形なのだろう?

シャーロックホームズのパイプで有名なピーターソンだから、
「六角形の意味を推理しては?」と
謎解きの楽しみをユーザーに提供しているのかも知れない。
毎日、私は推理し続けていた。そして閃いた!


これは北アイルランドにある六角形の石柱が覆った海岸、
あの火山活動で出来た4万の石柱をモチーフにしたデザインだ。

この石柱群にはロマンティックな伝説が残されている。
フィン・マッコールと言う巨人が、
スコットランドのヘブリディーズ諸島に住む娘に恋をして、
彼女をアイルランドに渡らせる為に造ったと言う・・・

今なお、北アイルランドはアイルランド共和国から分断され、
英国の直接統治となり複雑で深刻な政治状況は続いている。
アイルランドの人々が北アイルランドへの思いを
秘かに込めた六角形なのかも知れない・・・

北アイルランドが辿った歴史に思いを馳せながら、
私は六角形のパイプに火を入れる。


毎年、アイルランドのピーターソン・パイプは
St. Patricks Day / Christmas Pipe / Fathers Day / Year Pipe
のために特別に企画したパイプとタバコ葉を発売する。
聖パトリック(カトリック)への感謝の気持ちからだろうか、
高品質なパイプと特別デザインの缶入りタバコ葉は格安である。
特にファーザース・デイの高品質パイプは、
父に贈る子供達を考慮したとしか思えない価格が設定されている。
そんな真摯な企業姿勢に私は共感している。

日本のクリスマスセールや感謝大売り出しとは、
次元を異にした精神性を感じるからである。