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2013/03/31

パイプ・スタンドの彫塑:その3




打寄せる波をイメージしたパイプスタンド。
ヘラだけで成形し歪な地肌を残す手づくね」仕上げ、
と言えば、本格的な楽焼の様に感じるが、
面倒だから手を抜いて簡単に作ったに過ぎない。
私は陶器よりも鋭く張りつめた感じの磁器が好きだが、
人の体温を感じさせる様なパイプに合わせて
粘土を練り上げただけの泥臭さい仕上がりにした。

黒い地肌に引かれた銀色のラインは、
あまりにもボッテリと鈍重なのでシャープさを出すため
入れた装飾的アクセントである。

素人がアーティストとして通用する現代の日本社会では、
「瀬戸内の海を離れて生きる私の望郷の糸だ」とでも
最もらしく語れば通用するのだろう・・・
ハハハ


2013/03/27

パイプ・スタンドの彫塑:その2





夜、暗い部屋でこの手首は私を絶望的な気分にさせる。
底なし沼に呑み込まれ翻弄される様な宿命に、
一縷の望みでも掴もうと水面から突き出してもがく
最後の手首の様で悲しい。

しかし、私はこんな時間を何よりも優先している。
パイプにタバコを詰めてマッチで火を点けると、
協奏曲や交響曲の全楽章を聴くに丁度良い時間なのだ。
聞き慣れた曲が別の音楽の様に響く。

パイプを置くスタンドを作ろうと思っていたのだが、
物事を深く思考させてしまうパイプ喫煙の効力だろうか
私自身の心理表現なってしまった。

パイプスタンドは、もっと単純なモノが良いと、
新たなスタンドを作っている。
故郷の白い砂浜に打寄せる波をイメージして。





2013/03/21

パイプ・スタンド、自作の過程。その1



パイプ・スタンドを探したが好きなモノが無い。
紙粘土で自作することにした。
紙粘土は100円ショップで手に入れた。

アメリカのサイトで見たパイプ・ショップに置かれた
ディスプレイ台にヒントを得たが、
商品を飾る為では無く自分の部屋に置くのだから
彫塑として鑑賞に堪える彫塑作品にしたい。

自分の手を眺めながら作るのだから簡単だ。
色はアンティック・ゴールドにして
制作過程の荒いタッチを残した仕上げにする予定だが
作り始めて1時間、こんな感じになった。

完成作品は後日紹介する。


2013/03/19

最後まで支持に応えようとするダンヒルの義務感。






「シェル」より「ブリエール」の方が魅力的だと思っていたが、
こうして2本を見比べるとシェルの虜になってしまう。

1917年、ダンヒルが生み出したサンドブラスト仕上げ、
「シェル」はダンヒルを象徴する代表的なパイプである。
ブライヤーの年輪が凹凸に浮び上がり縞模様でパイプを取巻く。
その自然の美しさを黒い塗装で押さえた重厚さは、
華美に目立つ事を嫌い、あえて押さえた服飾を最良とする
英国人のドレスダウン感覚に通ずる気品を感じる。
そして、日本の侘び寂び文化にも通じる美学だとも思う。

このサンドブラスト仕上げをダンヒルが”Shell”と呼ぶのは、
工場でサンドブラスト加工を施した素材を運ぶ時に立てる音を、
アルフレッド.ダンヒルが「貝殻の音の様に聞こえる」と
「シェル」と呼んだのが始まりだと伝えられる
素材が出す騒音をカラカラ鳴る貝殻の音と聴くダンヒルの感性、
やっぱり彼は偉大な芸術家であり詩人だったのだ。
貝殻の様に硬く軽さが求められるパイプと見事に連動もする。

偉大なホンダの本田宗一郎氏やソニーの井深太氏など、
世界的大企業に成長する企業の創業者は
利潤追求よりもモノを創り出す喜びを重視する芸術家なのだ。

当初、アルフレッド・ダンヒルは家業の馬具製造業だった。
しかし、時代と共に自動車用品販売に転じ”Dunhill Motorities"を設立。
ホーン、ライト、ゴーグル、メーターなどを扱っていたが、
ダンヒル自身が考案した風避け付きドライブ用パイプが大当たりし、
業界最大手に成長、ダンヒル喫煙具の基礎となった。

サンドブラスト処理はクルマ好きにはよく知られている。
ダイヤモンドに次いで硬い金剛砂を研磨剤に使い
クルマの場合は錆びた部品などを磨き再生する方法であるが、
パイプの場合は表面に高圧で噴射し木目の柔らかい部分を削り取り
硬い木目部分を浮び上がらせる仕上げ方法である。
表面積が増えて放熱効果が良くなり軽量化にもつながる。

シェルのパイプは同じ重量のパイプよりも軽く感じる。
やっぱり、ダンヒルのパイプはくわえた瞬間、その違いが解る。
それは軽四輪エッセとポルシェC4Sの操縦感覚の違いに近い。
エッセは買物や雨や雪の中で頼もしく活躍してくれる。
ポルシェは長距離ドライブで威力を発揮してくれる。
だから、他のパイプもそれぞれの持ち味に合わせて愛用する。


いずれ、時代と共にパイプ喫煙者は消滅するだろう。
100年間に渡り世界に君臨して来たダンヒル喫煙具の名は、
ホワイト・スポットの名に変わって存続した。
それは、喫煙世代だった我々の支持に最後まで応えようとする
名門の誇りと義務感からなのだろう・・・。



2013/03/16

コモンウェルスの香り。奥様を追い払う香り?

















"Commonwealth Mixture is a light, cool, 
sweet smoke with a creamy tone. This tin is smokey-sour, 
the room note drives your wife away
but the pipe is pure joy from the beginning 
to the last puff." 

上の文章は、パイプ喫煙者がタバコ銘柄に付いて評価した
アメリカでのタバコレビューの部分である。
このタバコレビューを参考にして私はタバコを選んでいる。
しかし、「あなたの奥様を部屋から追い払う・・・」のジョークで、
私は喫煙者が持つエゴイズムを感じ強く反省した。

海外のパイプタバコ紹介には「Room Note」の項目があり、
Pleasant/Tolerable/ Strongなどと評価されている。
しかし、日本ではパイプタバコ店の商品紹介文や
専門家を真似て受売りを得意げに語るオタク講釈文は多いが、
部屋の香りにまで触れたインプレッションは無い。
未成熟な日本の個人主義を象徴しているのかも知れない。

タバコ好きの私には魅惑的な香りの煙も、
タバコ嫌いの人達には耐え難い嫌な匂いの煙なのだ。
それは子供の頃を想い出せばよく解る。
家庭的では無く葉巻の香りが漂う様な部屋に住みたいから、
これまで喫煙していた葉巻も部屋の香りを考えて選んで来た。
安い葉巻には強い香りで魅惑的な銘柄が多いが、
部屋に安香水の匂いが充満する様に思えて我慢した。
いま、私を最も魅了するキプロスのラタキア葉の芳香も、
嫌いな人に地獄の匂いでしか無いだろう。
部屋の香りを重視して"Room Note: Very Pleasant !"と
評価の高いW.O.ラールセン1864を大量に買込んだ。

奥様が逃出す程とまでジョークを言われたら仕方が無い。
紳士たるもの覚悟せねばならない。
気侭な一人暮らしとは言え、たまには訪れる客もある。
好きなコモンウェルスやスクワドロンリーダーは
ペペと山歩きする時、森の中でコッソリ燻らせよう。
アハハ


2013/03/10

ウイーン世紀末芸術の残り香と共に届いたパイプ。



写真は"GUSTAV KULIMT" von Angelica Baumer著の画集


先日購入したビング・クロスビー・シェイプのパイプは、
表面がザラザラした黒いサンドブラスト仕上げだった。
このシェル・ブライヤーと呼ぶマチエールも重厚で美しいが、
イタリア・ミラノの名店"Al Pascia"(リンク)の映像で
艶のあるブリエール仕上げの4110が存在することを知った。
ブリエールの細長いシェイプが実に美しい。



同じシェイプでシェルとブリエールをセットで持てば、
この2本とカナディアン2本とのローテーションでパイプは完了だ。
でも、ミラノの"Al Pascia"に在庫は無かった。
海外のタバコ店をネットで隅々まで探し続けたら、
ウイーン(ヴィエナ)のタバコ店に奇跡的に1本だけ残っていた。
Dunhill Bruyere "Bing Crosby" 4110 Silver ring made 2010。


2012年のシェルの箱は天板に白くThe White Spotのロゴが入るが、
2010年のブリエールの箱は型・素材・中袋と全て同じだが、
まだ正面サイドにDunhllのロゴが入り天板は無地である。


The Austrian Pipe-Embassy "Pfeifenkonsullat" (リンク)
Herbert Schober Handels GmbH
1879年創業と誇らし気に書かれているが、
ヨーロッパを支配したハプスブルク家の悲劇が始まった頃だ。
そして、ウイーン世紀末芸術が花開いていた頃だ。
サラエヴォ事件、第一次大戦、激動の時代を生き抜いたタバコ店。
「シシィ」と愛称された美しいエリザベート王妃の乗馬姿、
グスタフ・クリムトやエゴン・シーレの絵画、
ブラームス、ブルックナー、マーラーなどの音楽、
ヨーロッパ芸術が爛熟し凝縮したヴィエナの街。
画家クリムトが立ち寄ったかも知れないタバコ店なのだ。

もう、私はパイプの事はどうでも良くなって、
ヴィエナの歴史あるタバコ店で買物をする事の方が重要になる。
むかし学んだドイツ語の定冠詞の変化 「Der Des Dem Den」を
思い出しながら注文欄に記入し、
店からの注文番号とPeyPalの支払通知メールが届いた時は
ホッと安堵してベッドに潜り込んだ。

"Sissi "Empress Elisabeth of Austria

EMSで小包番号を追跡しながら私は待ち焦がれた。
そして今朝、その小包は配達された。
かって憧れたウイーン世紀末芸術の残り香りが隠った小包が、
極東のこんな山奥の小屋に送られて来た。
もう2度と訪れることも叶わないだろうヴィエナの空気が、
パイプから静かに流れ出して部屋の空気に融ける。
私は美しい街ヴィエナを訪れているような気分になって、
ドミンゴの歌声に合わせて唄い、ペペとワルツのステップを踏む
ラ〜ラ・ラ・ラララ〜「わが夢の街ウイーン」を・・・

このブログが縁でポルトガルからメールを下さり、
パイプ喫煙の悦びを、さり気なく私に伝えて下さった
ポルトガルの友人(リンク)に感謝しながら・・・




ロシア出身のソプラノ:アンナ・ネトレプコ。
メキシコ出身のテノール:ローランド・ビリャソン。
今を代表する若い二人の歌手を、
偉大なテノール:プラシド・ドミンゴが盛り立てて、
いたわる様に歌う姿が実にスマートだ。





2013/03/06

"The Gentle Art of Smoking" by Alfred H. Dunhill





1954年に出版されたアルフレッド・H・ダンヒル著
"The Gentle Art of Smoking" by Alfred H. Dunhill
この本を読んでみたいと思っている。
1954年の初版本は希少で US $274.99もの高価格だが、
初版に拘らなければ US $24,95程度で手に入る。

日本では1967年に「ダンヒルたばこ紳士」團 伊玖磨 訳、
朝日新聞社から出版されているが、
たばこ紳士録、なんて無粋なタイトルの翻訳をみると、
一般大衆受けを狙った内容に変わっている感じだから
読む気力が完全に失せてしまう。

1967年(昭和42年)の頃は、
まだ朝日新聞社がタバコ関連の本を出版するほど
喫煙は一般的な習慣だったのだ。


日本にパイプ愛好者は何人いるのか調べてみた。
2012年の統計で全国たばこ喫煙者率調査によると、
男性1,702万人、女性577万人、計2,216万人。
昭和40年のピーク時に比べると約半数に減少している。
パイプ喫煙者数に付いての確かなデータは無いが、
全喫煙者数の 0,15%〜0.3% 程度と推定されている。
0,3%とすると66,480人、0,5%なら僅か33,240人。
何と3万人程度の特殊な嗜好なのである。

さる海外のパイプタバコ小売店の年間の販売量が、
日本の全パイプタバコ年間販売量と同じだと言う話もある。
近い将来、パイプ喫煙文化は消滅するだろう。

しかし、室町時代に花開いた伝統工芸の美意識が生きる
日本製パイプは輸出され海外高く評価されている。
日本人のパイプアーティストの作品も人気を博している。

文化が失われて行く様を見ているのが辛い・・・




ラタキアの香りは大人が微かに漂わせる香りだ。





















昔、外国エアラインのファーストクラスでは食事の後に
ブランディなど食後酒と共にトレーで葉巻が出されていた
銘柄もサイズも解らないままに選んでいたが、
凄い大人になった気分で私は嬉しく得意になって燻らせていた。
今思うと恥ずかしくなる様な姿だったのだろう。
でも、それがハバナ葉巻を愛好する切っ掛けとなった。

そして今、葉巻達はヒュミドールで眠り続けていて、
すっかり私はパイプ愛好者になってしまった。
葉巻には無いラタキアの強い芳香に魅了されたからだ。
ラタキア50%、ブラウンバージニア50%の
イングリッシュ・ミックスチャー「コモンウエルス」を
冬の日差しを浴びながら燻らすが何よりの楽しみだ。

サミュエル・ガーウィズ製の「コモンウエルス」。
この不味そうな缶を見て喫煙したいと思う男は居ないだろう。
しかし、英国北西部レイクランドの古城を素朴に描いた
このタバコは200年も変わらず喫煙され続けている名品だ。
缶に書かれた誇りに満ちた言葉だけで充分なのだ。
レイクランドの心を込めて二百年造っている。
"Manufactured in the heart of English Lakeland for 200 years"

このコモンウエルスの日本での商品説明に、
往年の「バルカンソブラニー」を愛好された方にお薦めする
ラタキア旨味の強い至極の逸品と書かれている。
バルカンソブラニーはパイプタバコとして有名だが、
学生の頃、金色の箱に入った楕円形の紙巻タバコがあった。
ドイツのタバコとして有名で仲間内ではターキッシュと呼んだ。
あの頃の楕円形の紙巻タバコ、バルカンソブラニー
その香りは私を遥か遠い異国の地を旅させてくれた。
そして今、コモンウエルスが昔の旅を甦らせてくれる。

このラタキアの香り、可愛らしさが価値基準の日本では
正露丸の匂いなどと表現されて嫌われている。
家族に嫌われ部屋で喫煙出来ずテラスでは隣家に気兼ねする、
パイプ愛好家の嘆きがブログにも書かれている。
しかし、これぞ正しく大人の香りだと私は憧れている。

飛行機を降りた異国の空港で最初に匂う微かな香り、
精悍な英国の老紳士が秘かに漂わせているような香り、
とでも表現すれば良いのだろうか・・・